本シリーズ「仕事と介護の両立のリアル」は、りぷらす代表の橋本がインタビュアーとなり、各企業の取り組みを問う企画です。
今回は、一人の社員の相談から、仕事と介護の両立が可能な働き方を実践してきた、思いやりと信念のある企業の株式会社国本引地豊代表取締役と、実際の当事者であるササキさんにお話を伺いました。一人一人の不安や悩みに耳を傾けることこそ、働きやすい組織づくりに大切だという事が伝わってきます。
本編、2つの記事で構成されています。
前半は、引地社長が、どのようにして仕事と介護の両立を考え、実践してきたのか。
後半は、当事者である佐々木さんが、退職の相談を社長にしたところから、この両立の物語が始まります。
では、前半となります。
企業の概要について
橋本
まず、今回の企画の趣旨についてご説明させて頂きます。
弊社が、仕事と介護の両立を支援するという事業6年くらい続けている中で、企業の側でどのようにして、仕事と介護の両立をしているのかや、実際の当事者の方のお話を知りたいという声があり企画致しました。
橋本
まずは、株式会社国本さんの簡単な概要と取り組みについて教えてください。
引地社長
はい、株式会社国本と申します。本社は宮城県美里町と大崎市古川のエコクリーン大崎工場で、正社員株式会社国本と申します。本社は宮城県美里町、そして大崎市古川にエコクリーン大崎工場があります。正社員は47名で、パート・アルバイトが7名で仕事をしております。
現在、正社員さんの平均年齢が39.7歳で、平均在籍年数が9.5年という感じになっています。創業が1952年でかれこれ70年前に私の祖父が創業した仕事で、そして50年前の1972年に法人化しました。
https://kunimoto.biz/
引地社長
仕事としては、あまり一般的に聞きなれない用語ですけど、再生資源を集めて加工して販売する仕事や、産業廃棄物や一般廃棄物をを収集して処分する仕事を行っています。
ごみを捨てる制度が色々国内で出てきておりまして、代表的なのは家電リサイクル品とか自動車です。それらは特定のルールに基づいて捨てなきゃいけないんですけれども、そのお手伝いをする仕事も行っております。
橋本
有難うございます。働く時間はどのくらいですか?
引地社長
1日の労働時間は7:55〜17:00となっています。
休日については以前は87日と少ない状況でした。ここ2年くらい議論して、なんとか10日ほど増やすことができました。
橋本
国本さんのような企業さんがいるから町がきれいになって、無駄なものがちゃんと再生されてるんだなってのが改めてわかりました。ありがとうございます。
新しい実践は、100%の理解からは始まらない!困った時はお互い様と言う風土を作る覚悟
今回の主のテーマである「仕事と介護の両立」について、どんな取り組みをおこなっているのかお聞かせいただければと思います。
引地社長
長いこと事業をやっていると、社員さんのライフステージの山谷があります。もともと介護の相談はちらほらあったんですけど、6年前に私が代表交代した時に、表面化したのがササキさんの介護のお話でした。
ちょうどそのとき、橋本さんにも来て頂いたりというタイミングでして、そこで介護を必要とする方への対応であったりとか、社員さんの今置かれている状況だったりとかを知るようになりました。お母さんの問題が出てきてからササキさんもしばらく会社を休んでて、何回かお家に足を運んで実際に状況を見たときに、具体的に本人が困っている状況を目にしました。
引地社長
それに対しての会社の対応ですが、やっぱり昔ながらの体質だと「家の問題は自分で何とかして働きに出るもんだ」っていう観念がすごく強くて、個人の事情は知ったこっちゃない、とにかく働きに来るもんだと、それで板挟みで本人もしんどかったんじゃないかと思います。一時は退職の話も出たくらいだったので、会社として何か対応できることはないかと考えるようになりました。
橋本
何か特別な施策というよりは、現場で働いている人の声やニーズをもとに、必要とされる制度や働き方を、地道にコツコツやってきたのですね。
引地社長
正社員なのでフルタイムっていう条件は出てくるんですけど、どうしても送り迎えだったりとか体調崩した時って思った通り出勤できなかったりします。まずはそういう状態を理解したうえで、やっぱりご家族のケアを後悔しないようにしてほしかったんで、時短勤務であったりですとか有給を取りやすくしたりですとか、そういった柔軟な働き方にトライしていきました。
ただ当時はちょっと、社内も反対というか、それを快く思わないような方もいました。仕事を中心に考えると理解できなくはないですよ。ただ、いずれは皆さんのお父さんお母さんがこういうことになる可能性もあるし、みんなで協力してほしいと呼びかけながら、ちょっとずつ理解をもらいながら、そんな感じでやってきました。
橋本
働き方という面では「仕事と介護」以外にも例えば「育児」や「メンタルヘルス」など、いろんな課題があると思うんですけど、介護以外の取り組みなどされていたりするんですか。
引地社長
育児と産休ですね、ありがたいことに、事務職の女性陣で次から次へとお子さんに恵まれました。
はじめは産休の仕組みも手続きもわからなかったので、制度上の方法などは社労士さんに色々教えてもらいながら行ってきました。
橋本
経営していく中では、そのように働く方のニーズを汲み取りながら、上手くやってこられて素晴らしいですね。
「仕事と介護の両立」に取り組む意義や問題意識について、改めて教えて下さい。
仕事と介護の両立に企業が取り組むことの意義!お互い困ったことがあっても助け合っていくような会社にしたい
引地社長
やっぱりひとつは、地域で働く場所を作っていきたいです。外部環境的には生産年齢人口が減少し、人材の確保って地方の中小企業では大きな課題です。うちも採用には苦慮していますが、その中で来てくれた社員は、一人一人が大切な人材です。
あとはやっぱり橋本さんもおっしゃられてましたけど、どんどん高齢化が進んでいって、実際隣のササキさんの後に、今現在私が把握してるだけでも、47人正社員いるなかで、5,6人は親御さんの介護の相談が来ています。
それに対して、いちいち介護よりも仕事が優先だって言ったら、本人もやってらんないです。ですので「働きたいんだけど働けない」っていう状態にはしたくないですね。なるべく働ける環境を作り、安心して働き続けられる環境を作っていきたいと思っています。
高齢化だったり介護の問題って、当社だけじゃなく地域の課題と思っています。もしうちがそのような働き方を実践していれば、「こういう経営の仕方もあるよ」みたいな感じで紹介できるのかな~と思います。
引地社長
どうしてもやっぱり「雇用する側」と「される側」みたいな関係性あるかもしんないですけど、自分にとっては大切な仲間です。それぞれ価値観や生き方は違うにせよ、幸せになりたくてお金を稼いでるわけで、お互い困ったことがあっても助け合っていくような会社にしたいっていうのが経営理念です。
なので、その理念のなかでいうと、主役は社員だと思っています。自分自身そんなにやり手の経営者ってわけではないのですが、社員を幸せにできればなっていう思いは人一倍持っているつもりです。毎日一緒に仕事をしていると、笑顔が曇ったりとか幸せを感じられないタイミングってあるわけで、そこをみんなと共有しながら取り組んでってる感じですね。
橋本
先程お話しにあった、5,6名の方からの介護の相談というのは、自然に来るんですか?
引地社長
やってることとすれば、個人面談を年1回行っています。あと普段社員さんと話す時には、もちろん仕事上の話もしますけど、近くにいる時は、だいたい家族の話を聞いています。
様子がおかしいなってとき、悩み事って仕事と悩みもあるかもしんないけど、けっこう家の悩みごとって大きいじゃないですか。
その辺は会社で出来ること出来ないことはあるんですが、とりあえず困ってるとか悩んでるっていうのだけでも、聞くことで安心感が出てくるかなと思います。そこらへんはなかなか話せない人もいるかもしれないんですけど、やっぱりみんな何かしらは悩みはあるもので。
橋本
従業員からすると、話さないって選択肢もあるなかで、ちゃんと話してもらえる関係性をつくって来られ、良い関係性が築けてるんだなってのを改めて感じました。ありがとうございます。
後編は、実際の当事者である佐々木さんにお話を伺いながら、どのように社長に相談し、これまで両立の実践をして来られたのか伺っていきます。
後編に続く
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協力
・河村由美子(リハノワ代表)
・森啓