30代女性 サクラの場合 <③父親の病院退院編>

この記事は、vol.1およびvol.2 の続編となります。

父を迎え入れる準備

父の退院の目処がたった頃、病院のリハビリの先生とソーシャルワーカー(MSW)さんが「家屋調査」といって、父が家に帰ってからちゃんと動けるかとか、また、どんな道具が必要かなどを見にきてくれることになりました。

職場に言ってなんとか休みをもらい、家では、わたしと母、そして介護保険を申請した後に担当が決まったケアマネージャーさんが待機することになりました。


家屋調査の当日、病院の方々に連れられ、父が久しぶりに我が家に帰ってきました。

実に3ヶ月ぶりぐらいの帰宅だったので、父はとても嬉しそうでした。病院ではいつも職員の方々に気を使っているようでしたが、家についた途端に「どうぞお上がりください」とか「早くお茶を出しなさい」とか母親に指示を出しているのを見て、いつも通りの父だな、と、なんだか少し安心しました。

家屋調査の結果、階段・玄関・浴室・トイレに手すりを、また、浴室にシャワーチェアを入れることになりました。手すりは住宅改修ということで、退院後でないと工事ができないとのことでした。担当のケアマネージャーさんが、改修してくれる業者さんとのやりとりも全てしてくれたので助かりました。シャワーチェアについては、翌日、福祉用具の業者さんが家まで持ってきてくれました。

手すりや福祉用具の費用に関しては、一旦全額支払って、その後に役所に申請をしたら一部返金されるとのことでした。最初はまとまったお金を用意する必要があります。

待ちに待った退院日

家屋調査から約1週間。

とうとう父は、無事に退院できることになりました。退院の日は朝食だけ病院で済ませてもらい、9時ごろに迎えにいきました。忘れ物がないようにベッド周りを確認したりしていたら、先生が挨拶にきてくれたり、薬剤師さんが薬のことで説明にきてくれたり、リハビリの先生も顔を出しにきてくれたりしました。

いろんな方々に支えられて父は元気になれたのだと、改めて感謝の思いでいっぱいになりました。

病室を出る前の最終チェックを看護師さんと行い、入院中ずっと腕にしていた患者認識用のリストバンドを切ってもらいました。その光景を見ながら、やっと入院生活が終わったんだという気持ちと同時に、これからは家で私たち家族がしっかりと支えていかないといけないのだな、と少し不安になる気持ちもありました。

父は入院中、リハビリもあるためジャージしか着ていなかったので、退院の日には少しお洒落な服を持っていってあげました。久々にシャツに腕を通しお洒落をした父は、上機嫌で病院のスタッフに手を振っています。杖は持っているし前みたいにスムーズには動けませんが、その足取りはとても軽いように感じました。

病院から家までは、わたしが運転をしました。途中、綺麗な桜が咲いていたので、車を止めて3人で眺めました。

「こうやってまた桜が見れて嬉しいな」と、父は話します。

突然の救急搬送から始まった今回の入院。この3ヶ月、わたしも職場に無理を言って何度も休みをもらったし、母もパートをずっと休んで毎日父の見舞いにいきました。初めての介護保険申請も、ケアマネージャーさんと連携を取りながら自宅の環境を調整するのも、本当に本当に大変でした。

今まで全く考えもしなかった「介護」というものに、急に足を踏み入れることになるとは3ヶ月前は思いもしていませんでした。

「みんな、本当にありがとうな。みんながいなかったら、ここまで頑張れなかったよ。」

父の言葉に、母は桜を見上げたまま微笑んでいました。

よく見ると、ここ3ヶ月間で母は少し痩せたように感じます。父の介護に対して強い使命感を持っていて、今後は逆にそれが心配です。ほどよく息抜きもしてもらいたいなと思いますし、気晴らしにもなるだろうからパートも復帰してもらいたいなと思います。

私はというと、明日からまた仕事が始まります。退院から1〜2週間程度は、母から父の様子を教えてもらったり3日に1度は実家に帰ったりしながら経過を見て、今後の家族の暮らしの在り方についてしっかりと話しあっていこうと考えています。

万が一仕事に支障が出そうな場合は、職場はどれくらいサポートしてくれるのかなども確認してみようかな、、、。そんなことを考えながら自宅へ戻りました。

解説

ここまででポイントとなる箇所を整理しましょう。

まず、介護保険を申請してからサービスを利用するまでの一連の流れについて確認しましょう。
介護保険を申請する場合、まずは介護保険被保険者証を持参し役所にいきます。サクラの父の場合は50代なので第2号被保険者(40~64歳)であり医療保険証が必要となります。その後、市区町村等の調査員が自宅や施設等を訪問して、心身の状態を確認するための認定調査を行います。また、主治医意見書は市区町村が主治医に依頼をします。主治医がいない場合は、市区町村の指定医の診察が必要です。その後、全国一律の判定方法で要介護度の判定が行なわれます。一次判定と二次判定の結果によって要介護度が決定し、しばらく経ってから介護保険の「認定通知証」が家に届きます。

入院中であれば、それを持って病院の地域連携室(今回の場合はMSWさん)にいきます。そこから、地域連携室の方と相談しながら担当ケアマネージャーを選定します。選定は、お住まいの場所であったり、性別、どんなサービスを利用するかなど総合的に判断します。

担当のケアマネージャーが決まったら一度病院にきてもらい、本人・家族と面談を行います。在宅の家屋調整やサービス調整などは、サービスを受ける本人と本人を支える家族の意向を元に、ケアマネージャーが主導となり進めていくことになります。この時に出来る計画を「ケアプラン」と言います。ケアプランとは、対象者の介護の計画書です。


基本的に、住宅改修は退院直後から2週間以内に着工となることが多いです。ただし、事前申請という書類審査に時間を要せば着工までもう少し時間がかかります。退院前に着工することも可能ですが、万が一退院できなかった場合に全額負担となるため、入院中に行うことはあまり多くはありません。

もし、退院時に住宅改修が必須であれば、早めに準備を進めた方が良いでしょう。しかし、あった方が良いと思うがなんとかなるような気もするという場合は、退院後に改めて専門家の方と一緒に検討すると良いでしょう。なぜなら、病院と住み慣れた家では、生活に必要な機能や動作が異なるケースが多いため、病院で思っていたより自宅では上手にできるという場合があるからです。


福祉用具に関しては、ケアマネージャーを通して福祉用具を取り扱う事業所からレンタルを行います。ポータブルトイレやお風呂のシャワーチェアなどの衛生用品は、基本的にはレンタルは不可能で購入となります。良かれと思って、ご家族が杖や手すりなど設置される場合がありますが、残念ながらその方にあっていないケースもしばしば見受けられます。ぜひ、専門家の方に相談してから導入することをオススメします。


病気は予期せず起こります。慌てて準備をすると、その時のライフスタイルによっては充分な時間が作れない場合もあるかもしれません。だからこそ、元気なうちから「いざという時のこと」を事前に話し合うことが重要です。

この記事(シリーズ「介護のリアル」)では、事例をもとに学べる内容となっています。次回は、30代女性サクラの場合<④仕事と介護の両立編>をお送りします。

参考資料:
・厚労省:https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/flow.html



ライター:河村由実子
取材協力:畑中良子(MSW)、川添圭子(保健師)、内田忠夫(福祉用具専門相談員)

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